第一次世界大戦(1)国運を狂わせた対華21ヵ条要求 大正天皇は深く憂慮した

【昭和天皇の87年】

第一次世界大戦(1)
国運を狂わせた対華21ヵ条要求 大正天皇は深く憂慮した

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画=豊嶋哲志画=豊嶋哲志

第一次世界大戦(1)

 

1914(大正3)年6月28日、ボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボ。

当時オーストリア=ハンガリー帝国の統治領だったこの都市で、

オーストリアの皇位継承者フランツ・フェルディナント大公がセルビアの民族主義者に銃撃され、妻とともに死亡した。

このテロが、全世界で1600万人もの戦死者を出す第一次世界大戦の引き金となる。

オーストリアは7月28日、報復のためセルビアへの宣戦を布告、

これに対しセルビアを支援するロシアが総動員令を発令、

するとオーストリアの同盟国ドイツがロシアとフランスに宣戦して中立国ベルギーに侵攻し、

怒ったイギリスがフランス側に立って参戦…と、ドミノ倒しのように戦火が拡大していった。

アジアにも飛び火した。日英同盟を理由に、日本が参戦したのだ。

ときの首相は大隈重信、外相は加藤高明。

ともに独断専行型で知られる2人の狙いは、対岸の火事に乗じて懸案の日中問題を一気に解決することだった。

日露戦争後、日本はロシアから満州権益を引き継いだものの、その期間はロシアが中国と結んだ条約の残余期間(1898年から25年間)にすぎず、延長するには中国との間に新たな条約を結ばなければならない。

そこで山東省にあるドイツの租借地を奪取し、条件付きで中国に返還することで、見返りに満州権益を認めさせよう-というのが加藤の計略である。

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画=豊嶋哲志画=豊嶋哲志

 8月初旬に同盟国のイギリスから参戦要請があると、加藤は大隈の了承のもと、栃木県の日光田母沢御用邸で静養中の大正天皇のもとを訪れた。

「陛下、日英同盟もあることですし、ドイツと開戦するよりほかにありません」

大正天皇は苦悩した。

国防上の参戦ならともかく、欧州の戦火を自らアジアに広げ、国民の血を流す必要があるのか-。

前内相の原敬が日記につづったところでは、「(加藤は)拝謁して二時間も奏上し、結局裁可を得たる積(つもり)にて退出せんとせしに、陛下御呼留ありて、『諒闇(りょうあん)中だから』との御詞を三回も賜りて『能く協議せよ』との御沙汰」を下したという。

「諒闇中だから」には、同年4月に崩御した昭憲皇太后(明治天皇の后)の喪が明けておらず、大きな行動はつつしみたいという内意が込められている。

立憲君主として政府方針を覆せない大正天皇の、精一杯の“抵抗”だろう。

それを3回も繰り返したところに憂慮の深さがうかがえる。

だが、大隈と加藤は猪突(ちょとつ)猛進する。

事前に陸海軍の統帥部と十分な協議もせず、拙速な対応を懸念する元老さえ押し切り、同年8月23日、日本はドイツに宣戦布告した。

アジアに大軍を回す余裕のないドイツは、日本軍の敵ではなかった。

陸軍は中国山東省にある青島と膠州湾のドイツ租借地を攻略。

海軍は太平洋にあるドイツ植民地のヤップ、パラオ、サイパンなど南洋諸島を次々に占領。

相次ぐ勝報に、日本中が湧いた(※1)。

× × ×

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画=豊嶋哲志画=豊嶋哲志

 と、ここから大隈と加藤の計算が狂い始める。

参戦の狙いは満州権益の維持だったが、さらなる権益拡大を求める世論が強まったため、迎合してしまうのだ。

議会第2党の立憲同志会を与党とする大隈内閣は、第1党の立憲政友会を押さえる上でも、世論の動向に敏感にならざるを得ない。

外務省には当時、さまざまな要望が持ち込まれ、それが加藤を対中強硬路線に走らせた。

大正4(1915)年1月、加藤は辛亥革命後の中華民国初代大統領、袁世凱(えん・せいがい)に対し、満州権益の延長と山東省権益の継承などを求める1~4号14カ条の要求条項と、中国政府の顧問に日本人を採用させるなど5号7カ条の希望条項を突きつけた。

これが日本の運命を狂わせた、対華21カ条要求だ。

権謀術数に長けた袁世凱は、むしろこの要求を奇貨とし、日本に痛烈なしっぺ返しを食らわせようとする--。

(社会部編集委員 川瀬弘至 毎週土曜、日曜掲載)

(※1)第一次世界大戦で日本軍は、地中海にも特務艦隊を派遣し、イギリス軍などの兵員輸送を護衛した

【参考・引用文献】

○奈良岡聰智著「第一次世界大戦初期の日本外交-参戦から二十一カ条要求まで」(山室信一・岡田暁生など編『世界戦争 現代の起点 第一次世界大戦』〈岩波書店〉1巻所収)

○原奎一郎編「原敬日記」(福村出版)4巻

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