第91回 満州事変(3) 満鉄線路を爆破!関東軍の怒濤の進撃が始まった

昭和天皇の87年

満鉄線路を爆破!関東軍の怒濤の進撃が始まった   2019.1.26

■第91回 満州事変(3)

 満州の主要都市の一つ、奉天(現中国遼寧省瀋陽)の北方に、柳条湖と呼ばれる平原がある。

現在は低層マンションなどが立ち並ぶ商業地だが、1930年代当時は人家もまばらで、見渡す限りの高粱(コーリャン)畑と、水平線まで伸びる南満州鉄道(満鉄)の線路があるだけだった。

 1931(昭和6)年9月18日午後10時20分、一面の高粱畑を照らしていた月は沈み、降るような星空の下、大地を揺るがす轟音(ごうおん)が突然響いた。

線路に仕掛けられた爆薬が炸裂(さくれつ)したのだ(※1)。

 付近で夜間演習をしていた関東軍の独立守備第2大隊第3中隊は、中国軍の仕業とみて直ちに行動を開始した。

現場から800メートル離れた中国軍の兵営(北大営)を攻撃したのである。

諜報活動を行う奉天特務機関から関東軍参謀長に、緊急電が発せられた。

 「北大営の支那軍は満鉄線を爆破せり 其兵力は三、四中隊にして逐次兵営に遁入せり 虎石台中隊(第3中隊)は十一時過 北大営に在る敵兵五、六百と交戦中にして其一角を占領せるも敵は機関銃、歩兵砲を増加しつつあり 中隊は目下苦戦中 野田中尉は重傷せり」

 のちに柳条湖事件と呼ばれる、満州事変の勃発である。

× × ×

 関東軍の参謀に緊急召集がかかった。

多くは着のみ着のままで駆けつけたが、作戦主任の石原莞爾だけは軍服を身につけていたという。

 その石原が、軍司令官の本庄繁に迫った。

 「軍の全力を挙げて攻撃すべきです」

 本庄は、事件が謀略であることを知らない。

「まずは敵の武装解除をはかるべきではないか」と全軍への攻撃命令を躊躇(ちゅうちょ)した。

だが、北大営で苦戦中との報告を受け、ついに攻撃を決心する。

関東軍は19日午前までに奉天と営口(現中国遼寧省営口市)を占領。

長春では激戦となったが、午後には攻略した。

 事件当夜、在奉天総領事館で執務していた領事の森島守人は、満鉄爆破と関東軍出動の急報に驚愕(きょうがく)した。

関東軍による謀略の可能性が高い。

外交当局が主導権を握らなければ、ますます紛争が拡大するだろう-。

森島は、全職員に非常召集令を下すと、関東軍高級参謀の板垣征四郎のもとへ走り、説得を試みた。

 「平和的に解決すべきだ。奉天の平時占領くらいなら外交交渉で実現してみせる」

 板垣の顔色が変わった。

 「すでに統帥権の発動を見たのに、総領事館は統帥権に容喙(ようかい)、干渉せんとするのか!」

 板垣のそばで参謀の一人が抜刀するのを見て、森島は無念の唇をかんだ。

× × ×

 外相の幣原喜重郎が事件を知ったのは、19日朝、新聞報道によってである。

未明から急を告げる現地報告が入電していたが、幣原には伝わっていなかった。

何事も不干渉、現地解決主義を掲げてきた幣原外交の、弊害といえるかもしれない。

 事件は、政府と宮中に大激震をもたらした。

19日朝の様子を、昭和天皇実録が書く。

 《午前九時三十分、侍従武官長奈良武次より、昨十八日夜、満州奉天付近において発生した日支両軍衝突事件について奏上を受けられる。

奈良はこの日の朝、自宅にて新聞号外によって事件の発生を知り、奏上の際には事件が余り拡張しないことを信じる旨を申し上げる。

ついで同四十五分、陸軍大臣南次郎に謁を賜い、(中略)我が軍が北大営を攻撃し、占領した旨の奏上を受けられる》(18巻90頁)

 昭和天皇は、事件が拡大することを憂慮した。

その気持ちを知る奈良は南に対し、「大なる出兵を要するが如き場合には或は御前会議を要すべし」とクギを刺している。

 午前10時、臨時閣議が開かれ、政府は不拡大方針を決定、南も了承した。

 《午後一時三十五分、御学問所において内閣総理大臣若槻礼次郎に謁を賜い、政府は今回の事件については、事態を現在以上には拡大せしめないよう努めるとの方針を決定した旨の奏上を受けられる》(18巻90頁)

 だが、関東軍は真逆の方向へ動いた。

 謀略を主導する関東軍高級参謀の板垣と作戦主任参謀の石原の狙いは、戦火を全満州に広げて占領し、中国から分離するという、壮大なものだった。

局地的な紛争にとどまり、張学良の復権を許してしまえば、排日を激化させた張作霖爆殺事件の二の舞になりかねない。

 それを恐れる石原らは、“次の一手”を用意していた--

(社会部編集委員 川瀬弘至 毎週土曜、日曜掲載)

(※1) 満鉄の運行に大きな支障が出ないよう、線路爆破の威力はそれほど大きくなかったともいわれる

【参考・引用文献】

○阿部博行著「石原莞爾〈上〉」(法政大学出版局)

○稲葉正夫ほか編「現代史資料〈11〉続・満州事変」(みすず書房)所収の参謀本部「満州事変に於ける軍の統帥(案)」

○片倉衷著「回想の満州国」(経済往来社)

○森島守人著「陰謀・暗殺・軍刀-一外校官の回想」(岩波書店)

○幣原喜重郎著「外交五十年」(原書房)

○奈良武次記「侍従武官長奈良武次日記・回顧録」(柏書房)4巻

○宮内庁編「昭和天皇実録」18巻

コメントを残す

サブコンテンツ

i2i


サイト内ランキング



アクセスカウンター


忍者画像人気記事


このページの先頭へ