第103回 調査団(1):中国に「名」、日本には「実」を リットン報告書の真実

昭和天皇の87年  2019.3.9

「中国に「名」、日本には「実」を リットン報告書の真実」

第103回 調査団(1)

関東軍の暴走により、世界中を敵に回してしまった満州事変-。

その“落としどころ”を探るべく、国際連盟理事会が調査団の派遣を決めたのは1931(昭和6)年12月である。

イギリス貴族の元インド・ベンガル州総督、リットン卿を団長とし、フランス植民地軍総監のクローデル、元駐独イタリア大使のアルドロバンディ、元ドイツ領東アフリカ総督のシュネー、アメリカ大統領副官のマッコイ-の5人で構成。

団長の名を冠し、リットン調査団と呼ばれた一行は昭和7年2月29日、横浜港に到着した。

調査団の派遣には日本政府も同意している。

一行を迎えた国内世論は、おおむね好意的だった。

昭和天皇も調査団を歓迎した。

同年3月3日《午後零時三十分、(昭和天皇は)皇后と共に豊明殿においてリットン一行のため午餐を催され、雍仁(やすひと)親王・同妃勢津子、鳩彦(やすひこ)王・同妃允子(のぶこ)内親王と御会食になり、外務大臣芳沢謙吉ほか十八名に御陪食を仰せ付けられる。

終わって、牡丹ノ間において珈琲を供される》(昭和天皇実録19巻39頁)

調査団の一員、シュネーはこう書き残している。

「東京滞在の最終日、われわれは天皇からカモ猟のお招きを受けた。聞くところによると、これは皇室がわれわれに深い好意をよせているしるしであった」

× × ×

だが、好意を持たなかった勢力もある。関東軍だ。

満州独立を画策する関東軍は、調査団の派遣を知るや工作活動を急ぎ、早くも3月1日、「満州国」の建国宣言が発表される。

調査団が満州入りする前に、既成事実をつくろうとしたのだ。

当時の首相、犬養毅は国際社会の反発を恐れ、満州国を当面は承認しない方針をとった。

犬養暗殺後に首相となった斎藤実もこの方針を引き継いだが、承認を求める声は日増しに強まっていく。

関東軍は政府に対し、満州国の即時承認を要求。

立憲政友会と立憲民政党の二大政党も、満州国承認決議案を衆院本会議に共同提出し、6月14日に全会一致で可決された。

国民の多くも満州国の建国を熱狂的に支持している。

斎藤内閣の不承認方針は、大きく揺らいだ。

満州などの視察を終え、7月に再来日したリットン調査団は、雰囲気が一変していることに驚いたことだろう。

当時の様子についてシュネーは、「私としては、日本の対外政策が、あまりにも国内政局の動きや、国民世論によって左右されすぎているとの印象を受けた」と記している。

9月15日、斎藤内閣はついに満州国を承認する。

その日の夕刻、《満州国承認祝賀のため、在郷軍人・青年団・女学校生徒その他約四万人の旗行列が宮城二重橋前広場において万歳を三唱する》(19巻127頁)

昭和天皇は、満州国を承認したことで日本が国際社会から孤立し、国民が戦争の危機にさらされることを憂えている。宮城前に響く万歳の声を、どんな気持ちで聞いたことか-。

× × ×

リットン調査団の報告書が日本に通達されたのは、半月後の10月1日である。

その内容は、現在からみれば決して日本に不利なものではない。

だが、すでに満州国を承認してしまった以上、政府が妥協できる余地は極めて限られていた。

報告書では、満州事変における日本軍の行動を「正当な自衛手段と認めることができない」と否定する一方、満州には「世界の他の地域に類例を見ないような多くの特殊事情がある」とし、

日本の権益を大幅に認めていた。

また、中国側の「ボイコット(排日活動)」を不法行為とし、満州に自治政府を設立すること、主権は中国にあるものの、複数の外国人顧問を任用し、その多数を日本人が占めるべきだと提案した。

中国に「名」を与えるかわりに、日本に「実」を取らせる内容とも言えるだろう。

昭和天皇は、外交交渉に望みをつないだ。

10月3日《内大臣牧野伸顕をお召しになる。

いわゆるリットン報告書が(中略)連盟に提出された以上、如何ともし難きため、連盟の問題となれば、なるべく円満に解決するよう希望する旨を外相に伝えたこと等を内大臣に語られる》(19巻136頁)

政府も、何とか外交交渉の糸口を探ろうとした。

ところが、またしても過熱した新聞報道が、交渉の足を引っ張ってしまうのである--。

(社会部編集委員 川瀬弘至 毎週土曜、日曜掲載)

【参考・引用文献】

○宮内庁編「昭和天皇実録」19巻

○ハインリッヒ・シュネー著「『満州国』見聞記-リットン調査団同行記」(新人物往来社)

○森克己著「満州事変の裏面史」(国書刊行会)

○井上寿一著「国際連盟脱退と国際協調外交」(一橋大学一橋学会編「一橋論叢」〈日本評論社〉94巻3号収録)

○渡部昇一編「全文 リットン報告書」(ビジネス社)

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