第208回 絆とくさび(2) 仕組まれた「人間宣言」 天皇も負けていなかったが….

昭和天皇の87年

仕組まれた「人間宣言」 天皇も負けていなかったが…

画=千葉真
画=千葉真

第208回 絆とくさび(2)

昭和21年1月1日、日本再建への年が明けた新聞各紙に、昭和天皇の詔書が掲載された。

 --茲(ここ)ニ新年ヲ迎フ。

顧ミレバ明治天皇明治ノ初(はじめ)国是トシテ五箇条ノ御誓文ヲ下シ給ヘリ。曰ク、

 一、広ク会議ヲ興シ万機公論ニ決スヘシ

 一、上下心ヲ一ニシテ盛ニ経綸ヲ行フヘシ

 一、官武一途庶民ニ至ル迄(まで)各其志ヲ遂ケ人心ヲシテ倦マサラシメンコトヲ要ス

 一、旧来ノ陋習(ろうしゅう)ヲ破リ天地ノ公道ニ基クヘシ

 一、智識ヲ世界ニ求メ大ニ皇基ヲ振起スヘシ

 叡旨公明正大、又何ヲカ加ヘン。

朕ハ茲ニ誓ヲ新ニシテ国運ヲ開カント欲ス--

 以下、詔書で昭和天皇は、戦後の食糧不足や失業者の増大に心を痛め、敗戦の失意、道義の衰退、思想の混乱を憂えているとし、こうつなげる。

 --然レドモ朕ハ爾等(なんじら)国民ト共ニ在リ、常ニ利害ヲ同ジウシ休戚ヲ分タント欲ス。

朕ト爾等国民トノ間ノ紐帯ハ、終始相互ノ信頼ト敬愛トニ依リテ結バレ、単ナル神話ト伝説トニ依リテ生ゼルモノニ非ズ。

天皇ヲ以テ現御神(あきつみかみ)トシ、且日本国民ヲ以テ他ノ民族ニ優越セル民族ニシテ、延テ世界ヲ支配スベキ運命ヲ有ストノ架空ナル観念ニ基クモノニモ非ズ--

 のちに「人間宣言」の造語で知られる、「新日本建設に関する詔書」である(※1)。

 昭和天皇実録によれば、詔書は《五箇条の御誓文を国民に示すことが第一の目的であったとされ、民主主義の精神は明治天皇の採用されたところであって、

決して輸入のものではないことを示し、国民に誇りを忘れさせないように》するためであったと、昭和天皇自身の回想をふまえて明記している(35巻4~5頁)。

 当時の国民もそう受け止めた。

だが、海外では大きな反響を巻き起こす。

後段にある「現御神~非ズ」の一文により、「天皇の地位が神から人間へと歴史的変容を遂げた」とされたからだ。

× × ×

 後段の原案作成を主導したのは、GHQである。

天皇の神格性を天皇に自ら否定させる-というのが、その狙いだった。

一方、昭和天皇も負けてはいない。

英文の原案にはなかった五箇条の御誓文の挿入を求め、それを前面に押し出すことに成功している。

詔書に「人間」の文字はどこにもない(※2)。

 それでも、GHQにとっては神格化の否定と解釈できる一文さえあれば十分だった。

マッカーサーは《即日歓迎の意を示す声明を発表する》(35巻4頁)。

以後、海外の反応はGHQと左派勢力によって日本に逆輸入され、「人間宣言」の造語とともに、昭和天皇の意図をゆがめた形で定着していく。

 巧妙かつ非情な占領政策-。

GHQはいよいよ本丸、大日本帝国憲法の“解体”に着手する--。

(社会部編集委員 川瀬弘至 毎週土曜、日曜掲載)

(※1) 「人間宣言」の造語は、皇室記者の藤樫準二の雑誌記事がルーツとされる

(※2) 詔書が発出された経緯について、昭和天皇実録は以下のように、異例の長文をもって説明している。

《本詔書については、昨年十二月初旬よりその議が起こり、連合国最高司令部民間情報教育局長ケネス・リード・ダイク、同特別顧問ハロルド・G・ヘンダーソン、学習院長山梨勝之進、

学習院教師レジナルド・ホレイス・ブライス等が関与して、英文の詔書案が作成される。

それに「陛下は御自身の人格のいかなる神格化、あるいは神話化をも、全面的に御否定あらせられる」の一文を加え、十二月二十四日、宮内大臣石渡荘太郎より奏上を受けられ、

天皇のお許しを得て詔書案の作成は内閣に託される。

内閣総理大臣幣原喜重郎・文部大臣前田多門・内閣書記官長次田大三郎等により調整が図られ、二十六日までに案文が作成される。

二十七日午後、天皇は、内閣総理大臣代理前田多門(文相)より詔書案につき奏上を受けられ、五箇条の御誓文の主旨を挿入することを御希望になり、そのことが今後の国家の進路を示す観点から必要であるとのお考えを示される。

二十九日には内閣原案が完成し、三十日、さらに修正を加えた閣議決定案が提出され、夕刻の前田による内奏の後、午後九時、御署名になる。

三十一日午前、三たび前田が参内し、再度御改定を願う旨の奏請を受けられ、同日午後三時五十分、御署名になり、この日(昭和21年1月1日)の発出となる》(35巻4頁)。

なお、GHQの原案では「天皇を以て神の裔なり(とするのは)架空なる観念」という文章だったが、侍従次長の木下道雄が猛反対し、

「天皇ヲ以テ現御神トシ~非ズ」に修正されたとされる

【参考・引用文献】

〇宮内庁編「昭和天皇実録」35巻

〇八木秀次著「『人間宣言』天皇の真意は?」(月刊誌「文芸春秋」平成16年1月号収録)

〇ベン=アミー・シロニー著「母なる天皇」(講談社)

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